シンポジウム
「中等教育における英語表現指導:高大連携を見据えて」 (14:10〜15:50)
提案者: 岩本 昌明(富山東高校)
小山 英二(学習院中等科)
松尾
真太郎(筑波大学附属駒場中・高等学校)
第1発表
「論理・表現の教科書を用いたhumanisticな論理・表現の指導と大学入試問題対策との乖離」
岩本
昌明(富山東高校)
発表内容
以下の4点について実践例を紹介しながら、テーマに沿った発表となることを目指したい。
@論理・表現の教科書のレッスン内容に準じた実践例を紹介したい。具体的には、個人による日本の名所紹介、4人から6人程度のグループや班によるCM
skit作成、学年で実施した探究学習の内容を英語で発表する活動などを紹介したい。
A和文英訳や自由英作文の大学入試対策授業の中で、生徒からの質問から私自身が気づき学びを深めることができた例を報告する。具体的には、「今日では」「だれでも」、「人は」等を英語に直す場合に、いくつかの定番の英語表現があり、その差異と選択する場合の注意点をどのように授業で扱ったかについて紹介したい。
B課題英作文指導での実践例が紹介できればと思う。与えられたテーマ等に対して80語から100語の分量を英語で記述できる力を付けたい。そのための添削事例を参考にして紹介したい。
C文部科学省検定教科書で扱われているコミュニケーション活動から数例と大学入試問題で問われている英作文入試における形式などから、受験生が直面している現実とギャップを指摘し、そのギャップを埋めるために、どのような取り組みを本校で進めていたか紹介したい。
ご参加いただくフロアの方々との質疑応答を通して、私自身の実践の振り返りと発表内容への検討や深化が進むことでもなればと願っている。
第2発表
英語ライティング指導 〜「絵日記を通じた英語表現の育成」〜
小山 英二(学習院中等科)
発表内容
発表者の勤務校(学習院中等科)の英語の授業では2020年以降、ライティング指導に力を注いできた。特に過去形を体系的に学習する2年生では規則動詞・不規則動詞を文脈の中で自由に表現させるために夏期課題として
英語絵日記を2年生全員に課した。トピックの異なる2種類の英語絵日記を各々150〜200語程度の長さで書かせることで、英文の核となる動詞の語彙選定と規則動詞・不規則動詞の過去形の使用場面の頻度を意識させることを主眼とした。
課題のねらいは英文を書く前に実際に『絵日記』の『絵』を先に描かせることで、自己の経験を一度ビジュアライズ(=visualize)させること、使用語彙(特に動詞を中心とした内容語)に意識を向かせること、そして一番印象に残った場面に関して詳細な事実と心情的な英語表現を記述させることである。
指導の流れとして、1学期の授業を通じて形式主語It is…+to+動詞の原形や動名詞も効果的に使うことにより、I(私は)の主語使用の頻度を減らすことにつながり、絵日記全体として自然な英文になることを意識させた。また 夏休み明けに提出させた絵日記には教員が明示的・暗示的なフィードバックを付け各生徒に返却後、クラスごとに一人ずつ口頭発表をさせた。実際の発表では、発表者は原稿を読まない(聴衆者だけが電子黒板に照射された実際の絵日記を読むことができる)の形式でジェスチャーやアドリブ追加表現も許可した。2分半という限られた口頭発表であっても、英語で自らの体験談や思いを他者に伝えることの難しさを経験させることで英語表現そのものに目を向けるキッカケを与えることに成功した。
プレライティング活動→ライティング活動→ポストライティング活動に関して、効果的な指導方法や生徒達のライティングへの意識を変えるために具体的に何をしたら良いかを考える場としたい。
第3発表
高大接続を見据えた英語教育の在り方 ―高校授業実践に基づく技能統合型言語活動と推論的思考力の育成―
松尾 真太郎(筑波大学附属駒場中・高等学校)
発表内容
英語学習の「高大接続」という視点も交え、高等学校における英語授業から大学における学術的・批判的な英語学習への移行をどのように支援できるかを検討する。とりわけ、発表者が高校英語授業の中心に据えている「技能統合型の言語活動」と「推論発問」を活用した授業の実践例を題材に、成果と課題を明らかにしながら進める。
第一に、技能統合型の言語活動を中心に据えた授業実践では、学習者の思考と表現を結びつける活動を目指している。英語を「読んで書く」実践例として、教科書外から発表者が独自に作成した文学作品を題材にした単元例(「英語コミュニケーションT」)を取り上げ、話題提供とする。勤務校の「教養主義」の視点を取り入れた実践であり、大学入試の対策となりがちな高校英語授業へ一石を投じる。
第二に、推論発問を軸にした読解指導では、単なる情報の読み取りから一歩進んだ、批判的・論理的な読解力の育成を目標に取り組んでいる。特に、授業中の生徒とのやり取りを通して「筆者の意図」や「文脈の推測」を促す活動は、高校卒業後の英語学習で求められるアカデミック・リテラシーとの親和性が高い。ただし、授業時数の関係や様々な要因から高校の授業現場では推論を言語化するトレーニングが不足する可能性がある。英語で思考を展開する指導の体系化が今後の課題とされる。話題提供として検定教科書(「英語コミュニケーションT」)の単元より、推論発問を活かした読解の後にライティング活動でアウトプットする例を紹介する。
これらの授業実践を通じて見えてきたことのひとつは、高大接続における英語教育は、知識の習得だけでなく、思考と言語表現の往還を可能にする教育設計が求められているという点である。本発表では、高校と大学をつなぐ視点から、現行高校授業の再評価と指導法の共有を図り、学習者にとってより深い学びへとつながる英語教育の在り方を議論したい。