【特別講演要旨】

近年、さまざまな専門分野においてカルチュラル・スタディーズ的な思考や手法が注目を集めているためか、いきおい文化事象が前景化し、さらにその反動からか表現自体への関心が背景に押しやられる傾向があるように思えてならない。本講演では「英語表現」に対する関心を大切にされている日本英語表現学会の諸兄姉に対して、いく篇かの英語の詩作品を例にとって、表現そのものに対する諸々の意識を先鋭化して読むことで広がる深い詩の世界をご紹介したい。具体的には、これまでに考察した作品のなかから、表現を難解または曖昧にしたり、歪曲したりすることで、表現そのものが前景化し、それにより対象となる現実がより真実味を増す詩行に焦点を絞ってお話ししたい。

 

*講演者紹介

笠原順路(かさはら・よりみち)

明星大学名誉教授(2023〜)。専門はイギリス文学、特に1819世紀の詩。東京大学助教授(1991-99)、明星大学教授(1999-2023)、イギリス・ロマン派学会会長(2012-16)、日本シェリー研究センター会長(2007-11)などを歴任。主著は、『地誌から抒情へ』(編著、明星大学出版部、2004)、“Byron’s Dying Gladiator in Context” (The Wordsworth Circle, 2009)、『対訳 バイロン詩集』(編訳、岩波文庫、2009)、“P. B Shelly, terza rima, and Italy: Con-fusion of Voices, Persons, and Poetic Forms” (POETICA, 2014)など。最近の業績として“Another Folio in Meisei Shakespeare Collection: A Descriptive Introduction to The Vase of Shakespear with the Complete Transcript of the Larger Plaque”(『明星大学研究紀要―教育学部』、2020)、「齋藤勇の“magic casements”――後の齋藤英文学を胚胎する『英詩講義ノート(Keats篇)』」(『明星――明星教育センター紀要』、2020)、Variations on the Dying Gladiator & Other Essays on Byron (Privately printed by Osaka Kyoiku Tosho, 2023)など。